自宅療養について

○ 平成13年10月に入院後、気管切開とエダラボンの効果によって親

  父は奇跡的な快復をとげました。それで私は親父を家に連れ帰る決心

  をします。
  3ヶ月の入院期間なので期限は年内、決心をしたのが11月の初めで

  すから、わずか2ヶ月で全ての準備を整えなければなりません。実に

  忙しい年の瀬だった気がします。

 

 

私の取った手順(・・・とにかく情報を集める)

 

1.会社の福利厚生サービスの一つに「介護相談」というのがありました。秘密厳守

  ということで、ここに連絡をしてみます。実際は生命保険会社の契約者向けサー

  ビスで、この場合法人契約となっていました。(個人でも契約者であれば利用可

  能です。使わない手はありません。)指定された某大手生命保険会社の相談室に

  出向くと、実に丁寧に相談に乗ってくれました。具体的に地域のケアマネージャ

  までリストをくださり、様々な公的サービスについても教えてくれたのです。

2.公的機関との連携は不可欠です。具体的には保健所と地域のヘルスセンター(介

  護や老人医療などを扱う役所の一部門。)、障害福祉などの役所です。ここで重

  要なのは特定疾患受給者申請と身体障害者手帳申請それと介護保険認定を済ま

  せておくこと。これなくして公的機関の支援は頼めません。お役所仕事とはいい

  ますが、公的な支援を受けなければ、自宅療養は無理だといってもいいと思いま

  す。私は保健所とヘルスセンターに家庭医とケアマネージャの推薦を依頼しま

  す。お役所ですから、ここがいいですとは言ってくれません。でも、私の出す条

  件に合うのはこことここです、とは言ってくれるのです。要は聞きようです。

3.ケアマネージャーが自宅介護の要となります。実際に出向いて状況をよく話すこ

  とが大事でしょう。家庭の中に入り込んでのことですから、直接話をしないと分

  かりません。ただ、親父のような自宅介護の場合、ケアマネはやはり看護師であ

  る必要があります。そういう条件で絞り込んで訪問看護ステーションを決めま

  す。但し、ケアマネといえども親父のような患者の場合、医師の指示なしには動

  けません。人工呼吸器装着患者を診た経験のある医師をヘルスセンターに人選依

  頼しました。気管に通す特殊なチューブのカニューレは2週間に1回は交換の必

  要があります。この経験のない医師ではやはり心許ないのです。

4.お願いする家庭医訪問看護ステーションを引き合わせます。実際に会うのでは

  なく単に仲介ですが、訪問看護ステーションはどこかの病院に併設されるケース

  が多く、医師も自然と決まってきてしまいます。全く別の医師をたてる場合納得

  ずくでなくてはならないのです。難病患者の親父の場合、家庭に戻ってもKK病

  院の主治医が重要です。進行性の病気ですから、時々で介護方法も違うのです。

  私はKK病院芳山医師から家庭医に紹介状を、病棟担当看護師からケアマネに看

  護サマリーを届けました。

5.ケアマネが決まると備品の手配です。レンタルできる備品についてはケアマネか

  ら専門会社(私の場合はフランスベッドメディカル)へ連絡をして、手配を付け

  て貰います。介護用ベッド、車椅子、ベッド用テーブル、椅子に敷くクッション

  やトイレの補助器具などです。個別に購入しなくてはならないもの、例えばうが

  い用の手桶や口腔衛生用品、家族を呼ぶためのブザーなどは直接ここと話をしま

  した。介護用品についてはカタログだけでなく現物を見たいものです。介護用品

  のショールームが開設されており、私もここで色々と見て回りました。

6.備品でもう一つ重要なものがあります。吸引器です。人工呼吸器は医師の手配で

  専門会社が対応してくれ、健康保険扱いですが、吸引器は自分で購入しなくては

  なりません。これの選定には病院の婦長さんにお世話になりました。やはり日頃

  見ている看護師の方や医師が詳しいようです。吸引器は病院で手配願い、請求書

  だけこちらへ回して貰うようにしました。併せてサーチレーターを購入しまし

  た。血中酸素飽和度を測定する医療機器で、8万円ほどするのですが、人工呼吸

  器装着患者では必需品と感じます。闘病日記中しばしば出てくる「血中酸素飽和

  度」というのは、これで計った測定値です。

サーチレーター。指の先に嵌めて血中酸素飽和度を測る医療機器です。結構お高い商品ですが、きちんと酸素が供給されているのかどうかを客観的に知るには必要な機器です。

7.ここまでの手配で年は暮れていきました。ところがこれ以前に重要なこと、それ

  は介護場所の確保という問題でした。自宅療養を決意してまず考えねばならなか

  ったのはどこへベッドを入れるかということでした。介護用ベッドを入れるには

  まず2階はだめです。畳の部屋も苦しい。私が採った方法は家の増築をするとい

  うことでした。幸い庭付きの自宅でしたから、庭の一部をつぶして一部屋作るこ

  とで対応しようとしたのです。そこで、知り合いの大工の棟梁に相談します。

  ランダ部分を壊して6畳の洋間を家に継ぎ足しました。部屋について詳しくはこ

  ちらをご覧ください。

8.年が明けるとケア会議が開催されました。この辺は地域のヘルスセンターが仕切

  ってくれます。第1回は病院で、2回目は自宅で開催されました。ここでもう一

  度役割分担を明確にして、介護の方法が検討されました。実に大げさなんです

  が、これをやることで支援者の責任が明確になり、私としても色々なことを頼み

  やすくなるわけです。

9.医療用の備品をそろえなければなりません。また消耗品は通常購入できるところ

  を確保しなくてはなりません。具体的にはセッシ2本、吸引チューブ(口腔用・

  気切用)、Yガーゼ、テープ、ひも、綿棒、アンビューバッグ、人工鼻、イソジ

  ン(消毒用)、ヒビテン液、精製水など。問題なのはYガーゼで、普通の薬局で

  は入らない。また水は重要で、呼吸器の加湿器に入れる精製水は薬局で買える

  が、吸引の際にチューブを洗う希釈消毒液は注射水です。これは保険扱いで薬局

  で仕入れを依頼します。Yガーゼも依頼をすればどこでも入るのですが、保険扱

  いでないことで儲からないとか四の五の言われるので注意です。直接医療用品を

  扱う会社に頼んだ方がお得です。

10.最後に部屋におく備品の用意。必要不可欠なのが、エアコン。私は年末に購入

  し、年明けケア会議前の工事を決めました。あとは、加湿器とテレビ。呼び出し

  ブザーも不可欠です。本体をコンセントに取り付け、ボタンを手に持たせます。

  無線で本体がけたたましく鳴り出すというものです。私はこれを2セット購入し

  て、1つを私が寝る2階にも設置しました。24時間体制の看護が必要な人工呼

  吸器装着患者では必需品です。これが保険で認められない、公的支援の対象にな

  らないのはおかしいと思います。

ブザーの本体。これがもの凄い音を発します。1つで2つが同時に鳴り出すことを確認して購入しました。別々の部屋に取り付けますが、どちらかが鳴らないことの方が多かった気がします。

ブザーのスイッチ。携帯電話のストラップを利用しています。ボタンが平らで押しずらく、丸い石を貼り付けました。親父はこれを常に握りしめていました。命綱ということです。

○ 普通の自宅療養と人工呼吸器装着患者の自宅療養とは全く違います。
  人工呼吸器装着患者の場合、吸引という作業が必要です。気管に溜まる

  痰を吸い出してやらないと最悪窒息する恐れがあるのです。また肺炎予

  防としても必然です。吸引は個人差や体調の違いもあって一様ではあり

  ませんが、2~3時間に1度は最低でも必要になります。人工呼吸器の

  事故もありえるので、常に機械の動きを見守る必要もあるのです。つま

  り24時間体制の完全看護が自宅で要求されます。覚悟が必要です。