意思伝達について

ALSに限らず気管切開した患者にとって意思の伝達は切実な問題です。特に筆談もままならなくなるALS患者にとっては、健康管理という意味でも療養時の生き甲斐という意味でも、意思の伝達は重要な課題です。

(平成15年当時の情報です。ご注意ください。)

(1)筆談

   脳梗塞で言葉を失って以来、ノートへの筆談で用を足していました。ところ 

   が、ALSの進行によって手先の動きが悪くなります。容易に文字が書けな

   い。平成13年10月の初入院時はまだノートを使っていましたが、自宅に戻

   ってからはシーツやタオルの上など平滑な上に指でなぞるやり方に変わりま

   す。そして、プロの介護士がやる手のひらの上に字を書かせるというやり方に

   落ち着きました。

夕べ12時頃背中が痛くて眠れないので看護婦を呼んで医者を呼んでもらったら、今救急車で患者が来たので、少し待ってくれと言われて2時間たってやっと来た時にはおさまってしまった。尿道結石じゃないか・・・

 

 

 

(平成13年10月の筆談。ALSの告知を受けたというのに尿路結石を心配しているのが、親父らしい。痛いのは何とかして貰わねば、というつもりだろう・・・。)


(2)50音表

   平成14年の夏以降いずれはという思いから、50音表を部屋の壁に貼り出し

   ます。親父の場合50音表を覚えていないのです。今のうちに覚えなくては。

   戦争中のことでもあり小学校も満足に出ていない親父には、50音の並ぶ順番

   が分からない。そこで小学校の教室によく貼ってある50音表を買ってきまし

   た。で、ベッドの前に貼ったのです。

親父はよくカタカナを書きます。そこで、カタカナの50音表を用意しました。手先はうまく動かないもののまだ腕は動いたし、握ることも出来たので、レーザーポインターを握らせ指し示させました。家族でレーザーポイントの行方をよく追ったものです。

何しろ50音表の並びを覚えていないためにひどく時間が掛かりました。

レーザーポインター


(3)文字盤

   ALS患者に必携ともいえる文字盤ですが、なかなか市販の物がありません。
   平成15年夏頃に文字盤の作り方を解説してあるサイトを見て、自作したのが

   この文字盤です。B4判の透明アクリル板(3ミリ厚)に五盤目を引き50音

   を書き入れました。今にして思えば、カタカナで作るべきでしたが、結局使い

   こなすまでには至りませんでした。

手作りの50音文字盤


(4)単語文字盤

   次に自作したのがこの単語を並べた文字盤です。親父がよく訴えることがらを

   中心に、医者や看護婦に伝えねばならないことを単語で準備しました。右側が

   主に身体のこと、左側がして欲しいこと、という区別をしてあります。平成1

   5年夏以降の入院では、これはかなり重宝しました。手も動かず、目線を動か

   すのも難儀な親父にとって、痛い・苦しいなど切実な問題を伝えることができ

   ました。透明アクリル板に今度はEXCELで表組みを作って単語を書き入

   れ、OHPフィルムにプリントしたものをテープで貼り付けて作りました。

手作りの単語文字盤


(5)意思伝達装置

   今は様々な意思伝達装置が発売されています。それ専用の装置やパソコンにイ

   ンストールして使う物などいろいろな種類があります。しかしながら年寄りが

   簡単に使える物、というのは皆無に等しい。同時に単に声を失っただけでな

   く、ALSのように手の自由が利かなくなった患者には適切なスイッチが必要

   になってきます。スイッチ自体もいろいろな種類が発売されているのですが、

   コンピュータとのインタフェイスがなかなか大変で、専門知識を要することに

   なります。

 

○ 意思伝達装置は地方公共団体によって購入援助が受けられます。私の地域では最

  大で48万円までの援助があります。この辺がお役所仕事なんですが、申請をす

  ると福祉の職員が自宅や病院に検分に来ることになります。その上で判定を経て

  援助されます。すでに身体障害者手帳を持ち声が出せないことの記載があって

  も、管轄が違うということで検分するわけです。

 

  更に機器は指定業者からしか購入できません。直接メーカーから買った方が安い

  のに、大手の福祉業者を代理店にして購入することになります。またパソコンソ

  フトなど代理店で扱わないものは役所に登録をさせ、役所から支払いがなされま

  す。

 

  更にお役所的なのは援助は一回だけなのです。一度買ったらそれまでというこ

  と。ALSのような進行性の病気の場合、その時々の状態によって必要な機材は

  違ってきます。スイッチなどは逐次買い換える必要がある。上限48万円の中で

  買い増して行くことを認めていないのです。最初に予測して全部買いそろえろ、

  と。福祉行政は現場を検分しながら実際には表面しか見ていません。

 

○ 伝の心 パソコンによる意思伝達装置として実績の高い製品です。
  但し、パソコンとのセットでの販売のみでソフトだけでは販売していません。
  メーカー系なので仕方ないところでしょうか。50万円という高額商品です。
  メーカー側の態度は横柄で自分では商売抜きのボランティアと思っているようで

  すが、競争力のない商品が税金でまんまと商売しているという感じがしました。

  実際ソフトはメーカーサイトより試用版をダウンロード可能でWindowsのどの

  パソコンでも使用可能です。秀逸なのは緊急呼び出し機能が付いていること。パ

  ソコンでブザーの音が鳴らせます。自宅介護などで重宝します。

 

  基本的に意思伝達装置は病院のナースコールと連動しません。ナースコールの仕

  組みも色々あることから、あるいは安全性・責任問題からか接続はどのメーカー

  も念頭にないとのことです。しかし自分で自由にスイッチが持ち替えられる患者

  はいいですが、手の自由が利かない患者には不便で仕方ありません。

 


○ HeartyLaddre(ハーティ・ラダー) これは本当のボランティアが作った

  ソフトで無料で使えます。基本機能は伝の心と変わりなく、むしろパソコン使い

  にはうれしい電子メール機能やwebを見ながら書き込む機能なども付いていま

  す。私はこれを採用することにしました。ソフトだけダウンロードして自分のパ

  ソコンにインストールできるし、マウスをスイッチとして使えるような改造を施

  してもらえます(実費)。もちろん親父にとってインターネットへの接続などあ

  りえないわけですが、何より無料だというのがすばらしい。おかげでパソコンを

  置くテーブルやピエゾニューマティックセンサーなどの購入にお金を使えること

  になります。

親父に使わせたHeartyLaddre パソコンは私が以前使っていたもの


平成15年12月当時親父はNT病院でこれの練習をします。ありがたいことに言語リハビリの方が付いて練習を手伝ってくださいました。ハーィ・ラダーは入力した言葉を読み上げるだけでなく、保存できます。

 

パソコンに残っていた言葉には次のようなものがありました。すでに完全寝たきりの状態であり、口からの食事をあきらめて1年以上が過ぎています。なのに食べ物とベッドから起きることと、私へのお祝い、です。意志が深く通じるというのも逆に切ない部分もあるものです。結局使い切れなくてよかったのかもしれません。

 

<1>

******* ← *は私の名前 

誕生日おめでとう
11200959293333 ← この数字は意味不明
これからよろしく

 

<2>

***のくりよぅかんわ***にかぎるそれわうまい ← *は地名と商品名

 

<3>

*******まえのうなぎや****うまい ← *は場所と店の名前

 

<4>

くるまいすにすわりたい 

 

 

○ 意思伝達装置については現在様々なタイプが出ています。まず専用機タ

  イプのものとパソコンにインストールして使うタイプのもの。そして

  キーボードを操作するタイプのものとワンクリックのボタン操作のも

  の。更には視線入力や脳波入力など以前では数百万円したセットが何

  十万円かで手に入る時代に来ています。実用になるかどうかはともかく

  として、手足はもとより首や顔の筋肉も動かなくなり、最悪では瞬き

  すら出来なくなるALS患者と家族にとって意思伝達の手段を残すこ

  とは大変意味があると思います。

 

 

○ スイッチについて ALS患者の意思伝達にとってあるいはこうした

  装置を使うこと以上に重要なのがスイッチです。ALSの場合全身の筋

  肉が衰えて動かなくなります。手も腕も指先も、動かなくなります。そ

  うなると、どうやって意思伝達装置に入力するか、動かすかが重要な

  問題となるのです。キーボードもマウスも使えない。もちろん音声入力

  もダメです。最後まで動く筋肉、例えば口元や瞼などの動きを察知する

  センサースイッチが必要です。ピエゾニューマティックセンサーについ

  てはホームページをご覧ください。販売店の対応も親切で無料で試用

  機を貸し出してくれます。

 


意思伝達装置については、早めに使い出すのがいいと思います。特に高齢者などでキーボードに慣れない人などはまだ腕や手が動くうちに装置に慣れると、後になって楽だと思います。ネットに繋がったパソコンがあれば、

ベッドの上から世界中の人たちにアクセスできるのですから。

 

手が動かなくなれば、足でも操作は可能ですし、それもダメになっても様々なセンサースイッチが世に出回っています。要は操作を覚えたら強い。

 

自宅療養を始めてすぐに親父にはパソコンを貸し与えました。音声発生装置(打ったキーにより声を発する)や碁・将棋のソフトを入れてパソコンに慣れさせようと試みました。

 

が、長く椅子に座っていられなくなりパソコンはあきらめた経緯があります。自宅ではパソコンよりも筆談の方が速いし、家族ですから何となく意志が伝わるものですからね。